多様な地球規模課題の中でも生物多様性は危機的な状況にあり、生物多様性条約(CBD)における締約国会議においてもその深刻さは認識されており、ネイチャーポジティブという考え方がCOP-15等において国際的な目標として提案、合意された。気候変動分野や災害分野においてもネイチャーポジティブに関連する期待は大きく、Nature Based Solution (NbS)として、自然を活用した気候変動適応や緩和策、自然を活用した防災・減災等にかかわる研究や施策などに期待が集まっており、更なる研究が求められている。
ネイチャーポジティブとは、「現在の我々の生活や経済活動の基盤である自然を回復軌道に乗せるため、生物多様性などの自然資本の損失を止め、自律的に自然が回復できる状態に持っていく」という意味である。ネイチャーポジティブの推進はカーボンニュートラルを推進すること以上に複雑かつ不確定要素が多い。自然は本質的に複雑なシステムであり、その状態や価値を一義的に評価することは容易ではなく、また、関心や価値観が異なる多様なステークホルダーが関与するため、合意形成の難しさも存在する。その達成には自然科学から社会科学、人文科学にまたがる広範囲な研究が必要である。
今回の課題研究においてはネイチャーポジティブを推進するための研究課題、たとえば、自然科学による現状・将来に対する状況把握およびその定量化・指標化手法に関する研究、自然を活用した生物多様性、気候変動適応・緩和研究、防災研究、国際的なルール形成に関する研究、TCFD (Task Force on Climate-related Financial Disclosures)やTNFD (Taskforce on Nature-related Financial Disclosures)など企業による情報開示と投資促進の仕組みなどの研究、ネイチャーポジティブに資する政策枠組みの研究、加えて、地域の自然目標を設定する際の合意形成プロセスや、社会的価値観・文化的背景を踏まえた人文社会的課題に関する研究等の幅広い分野の学際的、かつ/または国際的な研究を募集する。