縦24.3cm 横22.9cm 高10.2cm

 樵夫蒔絵硯箱(しょうふまきえすずりばこ)

  蓋の甲盛(こうも)りを山形に高く作り、蓋と身の四隅を丸くとった袋形の硯箱で、安土桃山時代に作られたとされる。蓋表には、黒漆の地に粗朶(そだ:切り取った木の枝)を背負い山路を下る木こり(樵夫)を、鮑貝・鉛板を用いて大きく表す。蓋裏から身、さらには身の底にかけて、金の平蒔絵(漆の上に金銀などの粉を蒔きつけ、乾燥させてから磨き上げる蒔絵の技法)の土坡(とは:土の堤に、同じく鮑貝・鉛板を用いてわらびやたんぽぽを連続的に表し、山路の小景を表現している。本阿弥光悦あるいはその一派による作とみられており、意匠は巧みに材料を生かし、摺剥(すりは)がし(箔面を刷毛ですりはがしていく加工技法)にみられる個性的な表現の中にも緻密な技法が施されているなど、優れた芸術性がうかがえる。

    しかしながら、制作から400年以上の歳月を経て、経年劣化を免れることはできず、鉛板の著しい銹化(しゅうか)や貝部分の欠失、黒漆部分等に打損による凹みや塗膜の欠失などがみられる状況となっている。4ヵ年計画で修復を行っており、本年度は2年目となる。


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