(写生帳)   左:現況 右:寒霞渓

 木島櫻谷(このしまおうこく)絵画資料

  木島櫻谷(1877〜1938)は明治後半から昭和初期の京都を代表する日本画家である。徹底した写生、透徹した自然観照と叙情溢れる画風で古典画題に新風を吹き込んだことで知られ、近年再評価の機運が高まっている。

 櫻谷の没後間もない昭和15年(1940)に設立された櫻谷文庫では、櫻谷の遺品・作品類一式が保存されてきた。最近の調査により、多岐にわたる収蔵品の多くの資料に劣化が認められることがわかり、分野ごとの整備が急務となっている。

 そのうち、特に重要度が高いのが未表装作品と写生帳である。未表装(マクリ)作品は500点以上確認されているが、落款形式より晩年作、ことに山水画が多数含まれる。自邸で文人的生活を送ったとされるこの時期の作品はあまり知られておらず、貴重な作品群である。写生帳も約600冊確認されており、多くが10代後半から30代前半のもので、風景、植物、動物、人物など多岐にわたり、櫻谷が何よりも重視した写生の足跡がたどれる。西洋絵画の影響、本画(完成品)への発展をうかがわせる重要な資料であるだけでなく、それ自体が鑑賞に値する芸術性を有するものもみられる。

 全体に劣化損傷が認められるなか、資料の重要性、修復の必要性の高いものとして、未表装作品6点、写生帳30冊を対象として修復を行う。


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