本紙 139.1cm×120.4cm 

絹本著色 弘法大師像( こうぼうだいしぞう)

 本図は、「互御影(たがいのみえい)」と称される八幡神像と一対をなす弘法大師像である。真言宗開祖である弘法大師空海の肖像画遺品はいくつかの図像系統に分類されるが、「真如親王様 (しんにょしんのうよう:真如親王が弘法大師の在世中に描いたとされる肖像画を踏襲する様式)」が最も流布しており、現在重要文化財に指定されている単独画像はすべてこれに属している。他の系統を含め、肘木(ひじき)のついた牀座(しょうざ)に坐す図様が多いが、「互御影」は、牀座に肘木がないことで他と区別される。

 本図は、全体に保存状況が良く、的確な線描と彩色による象形は形式化した固さに堕すことなく美術的価値に優れている。また、画面左下に嘉禎四(1238)年戊戌正月十八日の年紀と僧厳海(ごんかい)の名が墨書されていることが注目される。僧厳海は、東寺長者 (とうじちょうじゃ:東寺の長官で真言宗の最高位としての権威を兼ね備える)となった真言宗僧厳海(1173〜1251)に相当する可能性が高い。空海像の遺品は少なくないが、このような制作に関わる記録を持つ遺品は稀少であり、更に当代第一級の人物が関与したことを示唆する墨書を伴う点、美術史のみならず歴史学上に大きな価値を有するものである。

 現状、画面上には折皺による亀裂や擦損が進行している箇所が散見され、適切な修理を施すことが喫緊に要請される。本年度より2ヵ年計画で修復を図る。


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