高さ 9.2cm 胴径 14.6cm

 初音蒔絵火取母( はつねまきえひとりも)

  六花形の胴の形状が阿古陀瓜(あこだうり)に似通っているところから「阿古陀香炉」の通称がある火取母である。木製の火取母の内に金属製の薫炉を収める構造が採られており、古代から中世にかけて使用された火取香炉の形を伝えるものとして貴重である。また、蒔絵画面に松竹梅と鶯の図柄が入り、葦手(あしで)が用いられている点も注目される。葦手は絵画的に描かれた背景のなかに歌文字を散らして、和歌や物語の一節を暗示する手法を指す。ここに施された平目粉による地蒔、蒔絵に平文を取り込んだ表現、いずれをとっても古様を示しており、葦手文様全盛の室町時代15世紀に制作された作品とみて間違いない。なお、「源氏物語」初音の帖に取材した蒔絵作品は、有名な初音蒔絵婚礼調度(国宝)を始めとして、近世以降に数多く作り出されているが、本作品はその嚆矢をなすものとして貴重である。

   しかしながら、経年変化を免れることはできず、漆塗膜の劣化、銀平文周辺の銹化が著しく、早急な修復が必要な状況となっている。本年度から2ヵ年計画で修復を図る。


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